2018/01/11

星々の意匠1:アンリ・ポアンカレ(数学者) ~無意識をONにする発想法


前回の記事でお知らせした「星々の意匠」、第1回目はフランスの数学者、アンリ・ポアンカレ(Jules-Henri Poincare)についてです。

ポアンカレと言えば、2000年に100万ドルもの報奨金がかけられた、7つの「ミレニアム懸賞問題」のうちの1つである「ポアンカレ予想(解決済み)」が有名ですが、その他にも非常に多くの業績を残している数学者です。




1854/04/29 01:00 フランス ナンシー
左図はポアンカレの出生図です。
出生地が高緯度地域であるため、ハウス(プラシーダス)の偏りが見られますが、データはアストロ・データバンクからそのまま転載させて頂いています。

Ascは山羊座24度。競争原理が働く社会の中でパワフルな活動をしていく度数域です。
中でもこの24度は普遍的な概念の、より根源的な部分にアプローチし、そこから発展させていこうとする度数です。権威的立場にある方にもよく見られます。

このAscの支配星、土星は双子座。4室で牡牛座の月とドラゴン・ヘッドとコンジャンクション。これらは7室乙女座の火星-バーテクス(Vt)とスクエアを形成しています。

非常に粘り強い働き者。基本的に抑制的ですが、Ascの象意と似た"源流へアプローチ"していくさまが強調されています。
身近なところに細やかな目配りが効きますが、その細やかさが神経の強い緊張につながりがちです。過度な刺激を求めがちな面もあったでしょう。しかしその仕事は大きな影響力を与え、時代を超えてたくさんの人に支持されます。

3室牡牛座の太陽は天王星とコンジャンクション、7室乙女座火星とトライン。
常識にとらわれず革新的。常に油をさして丁寧にメンテナンスされている機械のように、状況にとらわれず安定して稼働できる性質を持ちます。
その性質はノー・アスペクトの牡羊座水星によって助長されている面もありそうです。ノー・アスペクトの水星は、環境に依存しない純粋な知性として働く性質を持つからです。

また蠍座MCに対して天王星がクインデシル。牡牛座冥王星がインコンジャクト、牡羊座水星がセスキコードレイトをそれぞれ形成しています。
いずれにせよ、社会的な成功へフォーカスしていく衝動が生まれがちで、斬新で革新的なひらめきと共に、野心家の一面も持ち合わせていたと推察することができます。




1880/06/01 12:00 フランス ナンシー
若きポアンカレの"デビュー時"の4重円です。内円から、出生図/CPS/HN26/トランジット(1880/06/01)です。時間は仮に12:00としておきます。

1880年1月、フランスの科学アカデミーがある難解な問題を掲げ、懸賞論文を募りました。
当時25歳、新進気鋭の数学者ポアンカレは早速この数学の問題に取り組み始めます。

3月に一旦論文を提出するのですが、その後、数学者ラザルス・フックス(Lazarus Fuchs)の論文からヒントを得て提出済みの論文を破棄。
全て書き直し、1880年6月1日に新しい論文を再提出したのですが、それは大きな衝撃を持って迎えられました。ポアンカレは一躍"時の人"となります。

ICに近いn月-ドラゴン・ヘッド-土星にSA冥王星とp水星-p太陽、t冥王星が重なり、まとめてMCへアスペクトしています。
ミッドポイント(HN8)ではAsc/MC=太陽。そのn太陽-天王星にはp月とt海王星、同時に太陽/月のミッドポイントにはtドラゴン・ヘッドが重なっています。
また、HN26の土星-木星のコンジャンクションがn海王星にオポジションを形成。

自身の存在を社会に強烈に印象づけたと同時に、ポアンカレ自身の意識と環境の非常に大きな変わり目となりました。ポアンカレの数学者としての鮮烈な"デビュー"であり、本当のキャリアの始まりでもありました。




アンリ・ポアンカレ
さて、これを機に研究に没頭し始めたポアンカレですが、数学上の数々の発見を成し遂げる過程での「気付き」をポアンカレ自身が3冊の本に著し、1900年代初頭に発表しました。
これもまた大きな反響を持って迎えられ、フランスではベスト・セラーとなりました。

日本でも岩波文庫から翻訳本が出ていますが、100年以上経った今でも、名著の誉れ高い本です。科学者・数学者だけでなく、一般人である私達にも多くの知恵を授けてくれる本だと思います。

その"3部作"のうちのひとつ「科学と方法(1908年著)」では、ポアンカレが世界で初めて「発想法」について言及しています。
今は本屋さんに行けば「発想法」についての本がたくさん出ていますが、その大元はポアンカレの概念に基づいているそうです。

私を含め、誰でも普段から仕事やプライベートで常に迷い事や悩み事を抱えがちですが、良いアイディアや明確な解決策を見つけるのは、そんなに簡単なことではありません。

しかし「科学と方法」第1部/第3章「数学上の発見」には、ポアンカレ自身の実体験から、一流の数学者の「発想法」――「どうすれば良い解決策を見つけることができるのか?」という問いの答えを垣間見ることができます。



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ポアンカレはある時期「フックス関数」という数学の問題について、毎日毎日、朝から晩まで頭を振り絞るようにして、考えに考えを重ねていました。しかしどうしても答えが出ませんでした。

そんな中、ちょっとした旅行に行かなければならなくなりました。
旅行先ではいろいろ予定があってかなり忙しかったため、数学の問題を忘れていたのだそうです。
そんな中、馬車に乗ろうとして踏み台に足をかけた瞬間、突然、「答え」を思いついたのです。

帰宅したポアンカレは、その「答え」を元に次の段階の問題に取り掛かりました。
しかし、どれだけ考え抜いても分からない。心身共に疲れ果てたポアンカレは、数日だけ海岸で休暇を取って、その間は問題のことは忘れようと決めました。
しかし、別のことを考えながら海辺を散歩しているときに、また突然「答え」を思いついたのです。

「答え」を得たポアンカレはそれを元にまた次の段階へ駒を進めます。しかしまた頭を抱えてしまったのです。「フックス関数」はかなりの難問なのだそうです。
本に埋もれながら毎日毎日、机にかじりついて考える日々を過ごしていましたが、なんと次は兵役につかなければならなくなりました。もう数学どころではありません。

ところが、兵役についている間のある日、大通りを横切ったとき、突然「答え」をひらめいたのです。
兵役を終えたポアンカレは「フックス関数」の論文を一気に書き上げます。それは数学上の大きな発見となったのです。

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アンリ・ポアンカレ
ところどころ省略していますが、大体こういった"実体験"が書かれています。

もうお分かりかと思いますが、ポアンカレは「とことん考え抜いた後、その問題について考えるのをやめたときに、"答え"を思いついている」――「フックス関数」の件は一例であって、他のケースでも常に同じであったそうです。

ポアンカレはこの体験について、以下のように語っています。

これは長い間、無意識に活動していたことを歴々と示すものである。この無意識的活動が数学上の発見に貢献すること大であることは争う余地がないように私には思われる。――「科学と方法」アンリ・ポアンカレ著 / 吉田洋一訳 より

つまり、「答えをひらめいたのは『無意識』が働いていたから」であるとポアンカレは自己分析しているのです。

ずっと後になって、心理学の研究でこのポアンカレの自己分析――良いアイディアをひらめくための仕組みが正しかったことが解明されました。心理学では、この無意識の領域を「適応性無意識」と言うそうです。




「意識」はほんのわずかな領域
左図は意識と無意識の関係を便宜的に表したものですが、実際、人間の「無意識」はどこまでも広大なもので、「意識」できる領域というのは、かなり狭く、限定的なものであると解明されているそうです。

「無意識」は自覚することもできず、コントロールすることもできない領域であるにも関わらず、人間はほとんど無意識の領域で生きているということになります。つまり、


意識の領域でとことん考え続けた後、思い切って休む、という行為が、「適応性無意識」のスイッチを入れることになり、無意識下でも頭が働き続け、良いアイディアをひらめくことにつながる

ということなのだそうです。たとえ「意識」が一時的に他のことを考えていたとしてもです。

このブログ記事をご覧下さっている方の中でも、こういった感覚に思い当たる節がある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

この「適応性無意識」をONにする「発想法」については、「半分起きているような、半分寝ているような、うとうとしている夢うつつの状態のとき」にも難題の答えを思いついたことがあるとポアンカレは述べています。

つまり、「朝目覚めてすぐ、まだお布団でゴロゴロしているときにもひらめきがやって来やすい」ということなのだそうです。
勿論これも「意識の領域で考え抜いている状態」が前提となります。




キュリー夫人とポアンカレ
適応性無意識――もとい「無意識」は海王星の領域です。
また、月は最もパーソナルな天体ですが、独自の習慣や環境など、周りの影響を吸い込む天体であることから、西洋占星術では、月と無意識は表裏一体であると考えられています。

それは言い換えれば、無意識と習慣・環境は深く結びついているということになるのではないかと思います。
上記の「発想法」においても、意識領域で考える「習慣」が無意識のスイッチをONすることにつながっているからです。

逆に、「意識できる」領域の天体は、太陽や水星、金星、火星が当てはまるのではないかと思います。

こういった視点で考えてみると、ホロスコープに表されるそれぞれの天体の規模が、あまりにも違うということがお分かりになるのではと思います。
海王星をはじめとするトランスサタニアン、天王星や冥王星は、そもそも個人天体とはスケールが違いすぎますし、その分影響力が甚大なのです。

そういった意味で、西洋占星術における「月」という天体は、海王星の影響力とのつながりが深い、「習慣に基づいた受信機」であり、特別な天体であるようにも思えるのです。

いわゆる「勘の鋭い人」は出生図内で月と海王星のアスペクトがある方が多いですが、それは同時に「適応性無意識」とつながりやすい方である、と考えられるのではないかと思います。




内円:出生図 外苑:HN5図
左図はポアンカレの出生図とHN5図を重ねたものです。

数学者には珍しく、論文の不正確さを指摘されることも多かったそうですが、これはAscに重なる木星の影響によるものであると考えられます。

この木星は金星や月-土星等と小三角を形成しているため、人の良い部分と、(良くも悪くも)大らかな部分が出てくるわけです。

HN5ではさらに、月-海王星のコンジャンクションがこのAsc-木星に重なり、些事にとらわれず、無意識と習慣から来る直感の赴くまま、本流を追究していくスタイルが強調されているように思います。

またHN7では射手座Asc-海王星のコンジャンクション、HN9では蠍座海王星がn太陽-天王星にオポジションを形成しています。

出生図での魚座海王星は太陽-天王星にセクスタイル、火星にクインデシルのみのアスペクトですが、HN図から見るポアンカレは無意識や直感への衝動――海王星の領域が強調されていることが分かります。

ずっと後になって証明されたことを、すでに100年以上前に思いついていた、というケースが多いポアンカレ。
その並外れた発想力と創造力は、常に無意識をONにすべく努力し続けた賜物であると同時に、スケールの大きな海王星――「適応性無意識」との深いつながりの賜物でもあるのではないかと思っています。

出典・参考資料:
■「適応性無意識の心理学」  ティモシー・ウィルソン 著 / 村田光二 訳
■「第1感『最初の2秒』の『なんとなく』が正しい」  マルコム・グラッドウェル 著 / 沢田博 訳 / 阿部尚美 訳

2 件のコメント:

  1. ブログの更新、いつも楽しみにしています。
    新しく加わった「星々の意匠」
    とても素敵な試みですね。

    星学を紐解いていく楽しみと
    上質な文章を読む楽しみ

    両方を堪能できる記事でした
    ありがとうございます。

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    1. 寿さん、ご返信遅くなって申し訳ありません。
      あたたかいメッセージを下さって嬉しいです、ありがとうございます。

      「星々の意匠」については昨年夏頃から考えていたのですが、今年年始の星回りの勢いの強さに乗って始めてみた次第です。
      まだまだ勉強や試行錯誤が必要ですが、占星術を使って、より人間に肉薄していけるよう挑戦し続けていきたいと思っています。

      私も寿さんのブログやツイッターをいつも拝読して勉強させて頂いています!新しいブログの更新も楽しみにしていますね。
      ありがとうございました。

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